課題と成果 : The Challenge and The Results
時事通信社は、1945年に設立された日本の主要な通信社です。その包括的な報道と広範なネットワークで知られており、国内外の出来事に関する最新のニュースと分析を、日本語と英語の両方で世界中の購読者に提供しています。時事通信社は、かつて自社アプリを運用していましたが、収益性の低さとランニングコストの高さが要因で、運用断念に至った過去がありました。しかし、近年、デジタルメディアを取り巻く環境は大きく変化しています。ニュース消費の中心がスマートフォンへ移行する一方で、ニュースに割かれる時間は減少。さらに、ニュースアグリゲーターや広告モデルを活用した収益化が進む中、競争も激化しています。このような状況下で、Webサイトだけでの読者維持は困難を極めるようになりました。こうした環境変化を受け、時事通信社は読者層へのリーチを広げ、多様化させる必要性を再認識し、再びアプリ開発に挑戦する決断を下しました。
しかし、過去の経験から「業者に依頼してゼロからアプリを開発するのはリスクが高い」という懸念がありました。そこで注目したのが、「Flutter News Toolkit(FNT)」を活用した Google の支援プログラムです。FNT 導入を決めた最大の理由は、その圧倒的なコストメリットです。一般的なアプリ開発では業者選定や費用負担が重く、初期費用だけでも数百万円にのぼることが少なくありません。ただ、このプログラムでは、一次経費をほぼゼロに抑えることができました。また、FNT の技術基盤である Flutter を活用することで、iOS と Android 双方のプラットフォーム向けアプリを一括で効率的に開発できる点も大きな魅力でした。通常、 iOS と Andoroid 双方向けのアプリを開発する場合、 1.5 倍のコストがかかりますが、その部分を約 25 %削減し、迅速な開発が可能となりました。時事通信社にとって、アプリ開発に再挑戦するための大きな後押しとなりました。
時事通信社は当初、アプリのリリースには最低 1 年の開発期間が必要と見積もっていました。しかし、実際にはその 3 分の 1 程度の期間で完成。これは、FNT の効率的な開発環境を最大限に活用した成果と言えます。さらに、事前に設定された FNT テンプレートにより、時事通信社は Firebase を活用して UI/UX を改善するための A/B テストを効果的に実施することができました。この短期間での開発は、コスト削減と迅速なリリースの両立を実現させました。一方で、開発過程ではいくつかの課題に直面しました。たとえば、通信社としての特性上、ニュース記事は、事態の変化に合わせ記事が更新される配信スタイルを取っており、これに適したデザインをゼロから構築する必要がありました。また、視覚要素が限定的な経済ニュースへの対応や、日本語フォントの選定では試行錯誤を重ねましたが、より柔軟なデザインスキルの獲得にも繋がりました。